2005年07月15日

赤い盾 ロスチャイルドの謎

赤い盾.jpg
<赤い楯―ロスチャイルドの謎

学生時代に読み、知的好奇心というものを初めてかきたてられた本である。今まで自分はなんと矮小な視野で生きてきたのかと実感させられた。

企業から見た近代史とも言える本書は、スーパーからブランドにいたるまで非常に幅広い範囲の企業を扱い、そして舞台はヨーロッパ、アメリカ、アジアと世界中に渡る。膨大な情報量の中で、それをロスチャイルド財閥という一本の鎖でつないでいく著者の手法に驚嘆させられる。
内容は、ヨーロッパの財閥ロスチャイルド一族の成り立ちから現在までを、膨大な家系図により克明に記録したものである。現在世界的に活動している企業の重役には、必ずといっていいほど同財閥の一族が入っていることが著者独自の調査により示される。

本書は、「ユダヤ系のロスチャイルド一族が世界を支配している、という陰謀論に過ぎない」という評価を受けることも多いが、一読すればそれが全くの的外れであることがわかるだろう。彼らがどのようにして財を成してきたか、彼らの活動は一体どのようなものかを、膨大な資料をもとに徹底した現実主義的思考で組み上げており、そこには彼らの行動を世界征服の陰謀であるなどと決め付ける思考は一切入っていない。

著者の広瀬隆は、反原発運動家として「東京に原発を!」といった著作があるほか、各地で講演活動を行っている。本書も、市民生活を脅かす原発を推進する者は一体どのような者なのか、という疑問がきっかけで調査を始めた結果なのだという。

文庫で4巻ある本書の情報量には圧倒されるばかりだが、著者は、自分が一市民に過ぎないという姿勢を崩さない。いわゆる知識人であるという驕りも見られない。また、著者はロスチャイルド財閥に対し否定的ではあるが、全否定しているわけではなく、彼らなくしては世界の貴重な芸術が育まれることはなかったなどとしてその存在を評価してさえもいる。このような、バランス感覚ある著者の視線はむしろ斬新でもあると思う。

もちろん、難点もある。本書は、世界を対象とした、企業から見た近代史と言えるが、世界的に有名でも日本人には全くなじみのない会社名や人名が羅列されるため、一度で全体を記憶することはほぼ不可能である。著者独特の文体も好みが分かれるかもしれない。何よりの問題は、「一族」とされる範囲が異常に広く、普通の感覚ではもう他人ではないかと思われる関係までも一族に入れていることである。確かに、世界のトップエスタブリッシュメントが家系図上の一筆書きに収まることは脅威であるが、だからといって彼ら全員がロスチャイルド一族の一員という自覚を持ってビジネスを行っているとは考えにくい。

しかしながら、本書は世界がどのように動いてきたのかを知る絶好の書と言える。世界的視野で考えることに興味のある方は是非一読されたい。その際には、本書の根底に流れる著者の姿勢も味わいながら読んでいただければと思う。
posted by HM at 20:34| Comment(2) | TrackBack(0) | 書評−ノンフィクション | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
ブログ開設おめでとうございます。
 昔貴兄と熱く語った『赤い楯』論がまるで昨日のことのように思い出されますね。月日が経つのは本当に早い。
『赤い楯』の難点はご指摘のとおり「一族」という概念をどう読み解くかによって評価が変わるというところにあると思います。「ユダヤ人の集合だから一族意識が高いであろう,つまり大カルテルを形成することもたやすいであろう」という仮定をそのまま受け入れるのであれば本書はまさしくロスチャイルドファミリー暗黒史みたいな位置づけになるのでしょうが,「ユダヤ人は基本的に金しか信用しない,つまり系図上につながりがあったとしても協力して動くとは限らない」という仮定に立てば本書の論理が成り立たなくなる場面が多いのでしょう。ま,それにしてもこの圧倒的な調査力には度肝を抜かれますね。当時大学生だった僕はまさに敬服しきりでしたことを今も覚えています。
 さて広瀬隆は僕の中で今でも位置づけが高い論者です。最近は反原発の立場から燃料電池に言及している著書が多く,こっちの分野でも注目しています。なかなか一般家庭への普及には時間を要する燃料電池ですが,利権まみれの原発行政を正すためにも一層のブレイクスルーに期待したいところです。
Posted by ボーズ丸もうけ at 2005年07月19日 01:33
コメントありがとう!早速リンクしてもらい恐縮です。いやー文章書くのって難しいですねえ。やってみて改めて「僕の読書日記」のすごさがわかります。長く続けてれば少しは文章が上達すると思いたいので頑張りたいと思います。
Posted by HM at 2005年07月21日 23:40
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

この記事へのトラックバックURL
http://blog.seesaa.jp/tb/5112070

この記事へのトラックバック